今日の一冊 「七十歳死亡法案、可決」

今週のお題「最近おもしろかった本」

 

「七十歳死亡法案、可決」

垣谷美雨さんの10年前に発売された著書です。2020年に七十歳死亡法案が可決し、2022年に法律が施行される予定という、当時から見た未来を書いた作品です。

 

 

2020年、65歳以上の高齢者が国民の3割を超えた日本。社会保障費は過去最高を更新し続け、国家財政は破綻寸前まで追い詰められていた。そこでついに政府は大きな決断を下す。「日本国籍を有する七十歳以上の国民は誕生日から30日以内に死ななければならない」という七十歳死亡法案を可決したのだ。2年後に法律の施行を控えたある日、ごくありふれた家庭の宝田家にも小さな変化が起こり始めていた。義母の介護から解放されようとしている妻、家のことはすべて妻に任せきりの能天気な夫、超一流大学を卒業しながら就職に失敗し引きこもっている息子、ひび割れかけた家族から逃げ出した娘、寝たきりでわがまま放題の祖母。一番身近で誰よりも分かってほしい家族なのに、どうして誰もこの痛みを分かってくれないんだろう。

 

そもそもタイトルが衝撃的。

タイトルだけで、頭の中をぐるぐるといろんな考えが駆け巡ってしまう。

すでに両親は70歳過ぎているから、じゃあもうサヨナラってこと??

自分の人生もまだまだ折り返し地点と思っていたのに、残りはあとどれくらい??

いや、今の70代ってまだまだお元気な方ばっかりで、働いている方もいるのに、70歳って早すぎない??とか。

そういうモヤモヤを抱えながら、読み進めると。。。

 

介護以外の社会問題も含まれた重たいテーマのストーリーなのに、登場人物の軽快なやりとりや、テンポの良い場面転換が、悲壮感をかき消します。

誰にも理解されずにいた妻、就職できずに卑屈になる息子、実家に寄り付かない娘、思うように動けない辛さを理解してもらえない祖母、ブラック企業で潰れていく友人、法案の可決によって見えてくる人々の本音など、それぞれの立場で書かれている感情が、あらわになります。

あれこれ考える間もなく、トントンと話が進んで、結末は「そうきたか〜」と思わず声が出てしまいました。

10年前に書かれたモノだという違和感はほとんどありません。

辛うじて、今が10年前と違うのは、介護は家族だけでするものではなく、ケアマネジャーに相談したり、介護サービスを利用することが一般的になっているところです。

今なら、妻だけに介護の負担がかかることはなかったかもしれません。

家族内の問題は外からは見えにくい。中の誰かが何かアクションを起こしても、上手くいくとは限らない。

そんな時に家族以外に助けを求めたり、外の人が入ってくることで、変化が起きていくところが、描かれています。

社会問題がテーマと思っていましたが(もちろん社会問題もテーマの一部ではあるけれど)、これはどこか近くにいそうな家族の話です。

(ちなみに、登場人物の中で唯一共感できなかったのは、「能天気な夫」でした。)

 

垣谷美雨さんの作品は、どれも読みやすくて面白いので、引っかかるタイトルがあったら、是非手にとってみていただきたいです。

最後までブログを読んでいただき、ありがとうございました。