アメリカと韓国文化の狭間から、今日の一冊をお届けします。タイトルは「Hマートで泣きながら」です。

ふらりと本屋に立ち寄った時に、パッと目についた本を買うことはありますか?

 

私が本を買う方法は2つあります。

1つ目は、ネットや雑誌で紹介されている本の中から気になるものを検索して、面白そうだなと思ったらネットで買う方法。

2つ目は、ふらっと本屋に立ち寄って、ウロウロと歩き回り、タイトルや装丁が目についた本を手に取ってあらすじを読んだり、ページをめくってみて、中の文字の配列や文章が自分のテイストに合うかどうかを確認して買う方法。

 

今回は後者の方法で選んだ本です。

黄色の装丁が目に入って、中をめくったら読みやすそうだったから。

 

ミシェル・ザウナー著、雨海弘美訳

「Hマートで泣きながら」

 

著者は、お母さんが韓国人、お父さんがアメリカ人で、韓国ソウル生まれ、米オレゴン州ユージーンで育ちました。

ジャパニーズ・ブレックファスト名義で音楽活動をしており、グラミー賞最優秀新人賞と最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にノミネートされ、活躍されているミュージシャンです。今夏にはフジロックフェスティバルにも参加したそうです。

 

本書は、末期がんに冒された母の看取りを綴った著者ミシェル自身の回想録です。母の病気が分かってから亡くなるまで、そしてその後、ミシェルが母の死にどう向き合ったかを、過去の記憶と結びつけながら綴られていきます。

50週以上ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに載ったり、十数ヵ国語で翻訳され、映画化も予定されているそうです。

 

物語はスーパーで買い物中に、亡くなった母を思い出して泣いてしまうところから始まります。

そして、この物語の中心にあるのは、韓国料理です。

タイトルにあるHマートというのは、アジアの食材を扱うアメリカのスーパーで、韓国料理に欠かせない食材が手に入るため、ミシェルと母も通ったそうです。

アメリカに住みながらも母が娘を想い、作り続けた韓国の家庭料理が、母子の絆を繋ぐものとして登場します。

時には母へ愛情を伝えるものとして、時には母からの愛情を感じるものとして。

 

読んでいて一番しんどかったのは、母が抗癌剤治療で体調が辛い時に、ミシェルが必死に料理をして食べさせようとする描写でした。

母の体が料理を受け付けず、愛情を否定されたように感じてしまい、気持ちのやり場が分からなくなるもどかしさが綴られます。

一方で、読んでいて穏やかな気持ちになれたのは、最後の方でミシェルがお粥を作る場面。

自分で自分を癒やす方法を見つけた彼女の根底に流れる、静かなエネルギーを感じます。

 

マルチで活躍する彼女の文章は、描写が繊細で、歌詞の世界観を垣間見るかのような細部に渡る表現力に圧倒されます。

そして実体験に基づく物語なので、説得力も半端ないです。

また、原文は英語だと思うのですが、翻訳本と感じない素晴らしい翻訳の文章にも注目です。

 

読んでいる途中は、自分の母との葛藤を思い出して懐かしく思ったり、もし母がいなくなったらと想像して苦しくなったりしますが、読後はミシェルからエネルギーをもらい前向きになります。

そして当然のことながら、韓国料理が食べたくなります。お好きな方は、何か材料とか用意しておくと良いかもしれません。

私の場合は、「参鶏湯食べたいなー、でも作れないなー」と思って、結局鶏肉つながりで鶏つくね鍋にしました。まあ、悪くないでしょう。

 

韓国料理に馴染みがない方でも、きっと共感できるところがあると思いますので、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。